アライグマだけでなく外来種とどう向き合うか その2

前回のその1に続き、アライグマに限らず外来種と向き合う上での問題について紹介します。
アライグマだけでなく外来種とどう向き合うか その1

捕獲することの費用対効果

外来生物を捕獲することで根絶することが最も確実な方法です。毒餌やウィルスなどの病原菌を使った方法もありますが、取りこぼしが発生し失敗することも多くあり、失敗した場合それらに耐性を持つ場合があります。

捕獲という方法は、初期であれば非常に効果的です。日本で初めて成功した外来種の根絶例であるカナダガンの場合、根絶は2009年で約6年で79羽を捕獲することで完了しました。外来種捕獲の場合、捕獲された動物たちは処分になり未来はないことが多いのですが、初期段階だったため27羽が国内の動物園で飼育が決まり。3分の1近くの命が救えるという、動物愛護の点でも悪くない結果となりました。

大きくない島であれば、ある程度まとまった対策や長期の対策を行うことで可能です。外来のネズミが海鳥の及ぼす影響が大きいということで、近年では毒餌を中心とした対策で国内外で成果を上げています。沖縄のマングースも全滅には至らなくても長期の対策のおかげで、マングースが居ない地域を作り出すことに成功しています。

しかし、アライグマのように全国的に増えてしまった動物の場合、難しいと言わざるえません。イギリスでヌートリアとマスクラットを根絶させた例がありますが、8~10年かかっており、どちらの種も河川に限定的に住むので可能だったと言われています。なのでより生息範囲が広く、罠に対する学習性が高いアライグマでは厳しいと言われています。

ウイルスを利用した例では、オーストラリアのウサギが有名です。非常に致死率の高いウイルスを利用して、広大で人間の手による駆除が難しいオーストラリアのウサギを排除しようとしたのです。結果としてはウィルスの弱毒化やウサギの耐性獲得により失敗しました。やはりウィルスを自然界に放つ方法は、制御が難しいようです。

最近では遺伝子ドライブ技術を応用した駆除も研究されています。これは特定の遺伝子を通常確率よりも高く遺伝させる遺伝子ドライブ技術を利用して、繁殖にかかわる遺伝子を操作した上でその遺伝子が通常より遺伝しやすい個体を自然に放ち、長期的に減らすものです。この技術もウィルス同様に制御に不安があることや、虫のような世代交代が早い生き物は耐性を付ける可能性が研究で示唆されています。

初期のうちや生息域が狭い場合であれば十分可能です。一方で非常に広範囲に広がった場合は、莫大な費用を投じる必要がある上に、失敗する可能性があります。また、ウィルスや遺伝子技術を利用した方法もありますが、制御や安全性の面で未知の部分があり使うのが難しいのが現状です。

人が及ぼす影響が大きい

生態系に最も影響を及ぼしているのは、言うまでもなく人間です。アライグマの場合、イモリなどの水棲動物や鳥類の卵を捕食することで、大きな影響を及ぼすとされています。実際それらの動物にある程度は影響を与えてるのは、ほぼ間違いないでしょう。しかし、それらに影響を最も影響を与えてるのは人間です。

日本は台風などによる水害の多い地域です。ダムを作り川の流れを変え、川の周りに堤防を作ったりコンクリートで固めてきました。米も日本人に欠かせない食物で、遥か昔からより多くの量が収穫出来るように努めて、ため池や水路を作ってきました。戦前のレべルであれば生き物も住むことが出来ましたが、コンクリートを使った水路が主流になることで難しくなりました。

こうして水辺を大幅に作り替えることで、水棲動物や鳥類が大きく影響を受けたと言えます。ただ、これらの努力のおかげで安全な生活や、美味しいお米が食べられるようになったのも事実です。動物たちにとっては悪いことでも、人にとっては必要なことでした。

また人の行動が外来種に住む足掛かりを作っていることもあります。ヨーロッパから日本にやってきたと言われているオカダンゴムシやホソワラジムシも、そんな生き物だと言われています。オカダンゴムシもホソワラジムシもごく一般的なダンゴムシとワラジムシで、子供たちがつついて遊んでいるのは殆どそうでしょう。一方日本に元々居たワラジムシやダンゴムシは、森などで暮らしています。これはヨーロッパから来た二種が住処を奪ったのではなく、人が住処を提供したからです。日本の在来種は湿度が高めでないと生きていけないのに対し、ヨーロッパの乾燥した気候に適応したため比較的乾燥に強いのです。人が乾燥している都市環境を増やすにつれて、在来種は生存圏を狭め外来種が在来種が居なくなった隙間を埋めたに過ぎません。

植物の場合も似たようなことが多く、都市開発で出来た空き地や臨海部の埋め立て地など、本来の自然には無い環境に適応出来た植物のうち幾つかがたまたま外来種であっただけ。そしてそこに植物が生えることで、在来種が生息の足掛かりとすることが出来る場合もあります。勿論必ずしも良いことばかりとは言えません。

全体を見ることでより多くの動物を救えるが

前に上げた二つの例より考えられる方法として、割り切ることや他の環境保護と合わせて効率的に予算を使うことも一つの手ではあります。

既にある程度広がってしまった外来種を諦め、いっそ新たに定着する可能性のほうに絞ることや、離島のような捕獲による対策が可能な地域だけに対策を振り向けるというアプローチです。更に人が最も環境に負荷を与えてるという前提の元に、環境を取り戻すような都市開発に変えていき、その中で外来生物の影響を受けやすい動物へのアプローチを厚くするという方法も出来ます。

単純な効率だけで言えばそうなのですが、諦めて割り切るというのが心情的に難しいのがありますし、動植物へ配慮した都市環境作りという考え方が日本に浸透していると言えない問題もあります。そして最も大きいのは予防的対応や全体を見通した包括的な予算の振り分けが最も効率的であっても、たらればのような曖昧なものに予算を振り分けるが難しいことです。環境問題以外の様々な問題が沢山あり、予算でいくらあっても足りない現代社会では、発生してる問題に対処するという形が一番予算が付きやすいのは明白です。

道徳・心情的問題

捕獲した動物を処分するのには、抵抗が出るのは当たり前のことです。しかもそれが、偶発的に発生したのではなく、人が引き起こしたとなれば更にです。しかし、外来種により被害を受けている動物もいます。なので可愛そうだから放置というのも問題があると思います。

アライグマのケースであれば捕獲される数が莫大なため、全てを飼育するのは不可能です。また、大人の個体は人に慣れさせるのが難しい傾向もあるので、生態的な面でも難しいのです。

一方で子供から育てるのあれば、飼育が可能なケースもあります。また繁殖不能にした上での飼育を義務付ければ、万が一脱走した時も被害を限定的にすることは可能です。しかし、そういった試みは殆どされていません。

捕獲個体の大半は救うことは出来ませんし、人間が飼育すること自体が自己満足かもしれません。しかし、よりスムーズな対策を実行するためや、生態や問題をより広く知って貰うためにも、命を救う取り組みも並行して行うべきだと思います。

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