アメリカザリガニー日本の外来生物たち
最もポピュラーな外来生物であるアメリカザリガニについて紹介します。最初ではアメリカザリガニが現在も違法ではないという法律的なこと、次に生態やか環境に対する問題を紹介します。
記事作成日: 2021.04.18/記事更新日: 2021.10.06
今の法的な扱いでは飼育や捕獲は可能だが最大限の注意を
記事を書いた2021年10月の時点ではアメリカザリガニについては特別な罰則は無く、今まで通りで大丈夫です。しかし、アカミミガメと共に新たな形の規制の検討がされています。
まだ決定ではありませんが特定外来生物と同じく輸入・販売・移動を禁止する反面、特定外来生物と違い飼育や譲渡は認める方向のようです。2021年度中にこの内容で検討され、修正などが必要場合行った上で、正式な決定になる見込みです。
現在は特別な規制は無いものの生態系への影響を考えれば、モラルの問題として取り扱いしっかり考えてください。ちゃんと調べたつもりですが誤りがあることもあるので、気になる点はご自分でも環境省のホームページなどで調べて下さい。
ザリガニのうちアメリカザリガニとニホンザリガニ以外は、全てのザリガニが既に特定外来生物に指定されています。2020年11月2日以降から新しく飼育を始めたり、生きたまま移動させたり、販売、繁殖、輸入などが出来なくなりました。違反した場合は懲役や罰則があります。今まで飼っているザリガニついては、アメリカザリガニ以外も2021年5月までに申請することで飼育継続が可能と変更となりました。
理由はいくつかありますが生態系への影響、特にザリガニペスト菌を在来種のニホンザリガニへ媒介しないようにするためと言う点が重視され決められました。
一方ニホンザリガニは国内在来種なので本来規制はありませんが、秋田県では生息する水路がニホンザリガニ南限の生息地として天然記念物に指定されています。そういったケースなどは、捕まえたりすると罰則がある場合があります。もっとも秋田県のその生息地の近くにはニホンザリガニまだいますが、その生息地自体は宅地開発でニホンザリガニは居なくなってしまっています。
アメリカザリガニは以前と同じく、生態系被害防止外来種の緊急対策外来種に指定されたままになるだけです。何だか物々しい言い回しですが、特定外来生物に指定されない限りは制限や罰則は無いので特別心配はありません。ただし、滋賀・長野・佐賀県では内水面漁業調整規則があったり、地域によっては本来の繁殖地以外に放すことは出来ないなどがあります。
生態系被害防止外来種の緊急対策外来種は、総合的に対策が必要な外来種という位置付けで、本来であれば特定外来生物に指定されてもおかしくありません。しかし、アメリカザリガニはあまりに身近な存在になりすぎているため、安易に指定すると混乱を産む可能性があるため棚上げになっています。そのため今後何らかの規制が行われる可能性は十分ありますが、その時も飼っているといきなり罪になったりはしない措置が取られると思われるため、飼っているザリガニは安心して飼い続けてください。
アメリカザリガニはアメリカのザリガニ
アメリカザリガニは名前の通り、アメリカに住むザリガニです。アメリカ南部のミシシッピ川河口の湿地などに住むとされています。
アメリカザリガニが日本で広まったのは人が連れてきたからです。1921年に栗田という人物が初めて輸入し、1930年には河野卯三郎が1918年にその兄が輸入していたウシガエルの餌用に神奈川県鎌倉市へ輸入した記録が残っています。どちらもルイジアナ州からの民間輸入でした。ただ、この養殖は長く続かなかったようで、1935年には養殖をやめていたようです。
日本に居るアメリカザリガニは、アメリカザリガニに寄生する寄生虫やアイソザイム(同じ働きだが違うアミノ酸配列の酵素)の分析から、海外からの導入回数が少ないと思われています。そのため、この時日本に来た個体が、今日本に居るアメリカザリガニの祖先のようです。
今や日本全国に生息するアメリカザリガニですが、人為的な理由で広がっていったのは間違いないのですが、どうやって生息を広げていったかは分かりませんでした。気になる点としてウシガエルとの関係です。ウシガエルは1918年頃より国策で農家の副業と害虫駆除のためは自然に放たれたり養殖も試みられ、戦前から第二次世界大戦開始時までと、戦後から農薬検出で輸出がアメリカに出来なくなるまでは積極的に輸出が行われ、日本中で貴重な外貨獲得手段となっていました。そのためウシガエルの餌として、積極的に野外に放つなどがあったのかもしれません。
外来種としての進出は日本だけでなく、メキシコ、ドミニカ、スペイン、フランスと進出しています。
※参考文献
国立環境研究所「侵入生物データベース」、川井 唯史・小林弥吉「神奈川県鎌倉市におけるアメリカザリガニの由来」神奈川県自然誌資料 (32)、梁井 貴史「ウシガエルの輸入年および全国分布に関する一考察」川口短大紀要(17) (2003)
ニホンザリガニより身近なアメリカザリガニ
日本中に分布を広げたアメリカザリガニは47都道府県に生息しています。元々アメリカ南部原産のため、寒い北海道に住むのは難しいのです。しかし、温泉街など排水温が高い場所を利用し、北海道でも生息することに成功しています。こういった現象は日本で野生化したグッピーでも見られます。
原産地では湿地を好むため、流れの速い川の本流や水温も低い渓流部では見られません。比較的流れが緩やかな場所や、田んぼや沼のような湿地帯で見れます。
餌は雑食性で、植物から魚や虫に小型の両生類などなんでも食べてしまいます。そのため場所によっては在来生物を減らす原因となっています。
夏に交尾をし秋ごろ産卵するとされていますが、場所や温度の影響もありそうです。岡山県の例では、4月~12月頃まで繁殖行動を行っていました。
ザリガニは1~2年で大人になるとされていて、幅があります。先ほど同じ岡山県の例では、1~3月も脱皮が確認されました。もともと冬は成長が止まるという話でしたが、場所によっては年間通して成長している可能性があります。
日本での天敵としてブラックバスやナマズなどの肉食魚や大型の水鳥に、イタチやミンクやアライグマなどの哺乳類もいます。
穴を掘って巣穴にしたり、冬季の冬眠用の住処とします。そのため田んぼの畔に穴をあけるなど、農業に悪影響を与えることもあります。
※参考文献
牛見 悠奈・中田 和義「農業用水路における外来種アメリカザリガニの生活史」H26 農業農村工学会大会講演会講演要旨集
狩りのために草刈りをするザリガニ
ザリガニは植物も食べますが、食べない時も水草を刈ったりします。その理由は見晴らしをよくすることで、水草に隠れる生き物をあぶりだし捕食しやすくします。その特性があるために、より多くのヤゴや魚などの水棲生物食べることが出来るだけでなく、水草類刈ることで育ちにくくもしてしまい、連鎖的な影響を及ぼす場合まであります。
原産地のアメリカでも本来生息していないかった川にアメリカザリガニが進出しヤゴを食べるため、長期的には蚊の増大やそれによる感染症の増加も心配されています。
アメリカザリガニと他の外来種の複雑な生態系
以前まではイケイケだったアメリカザリガニも、今では減っているところがあります。アメリカザリガニが外来種として捕食者側でしたが、最近はブラックバスやブルーギルにライギョなどの他の外来種の餌となって数を減らしている場所が出てきています。
そのため環境保護活動をする方たちが捕食される小魚たちを守るためにブラックバスやブルーギルを減らすとアメリカザリガニが増え、今度はヤゴや水草などに影響が出る場合があります。そのためブラックバスやブルーギルほど他の魚への影響が少ないとして、ライギョをあえて残す取り組み例などもあります。そして元々アメリカ育ちのアライグマや最近少しずつ数の増やしているアメリカミンクは、アメリカザリガニが大好物です。特にミンクはアメリカザリガニを特に好んで食べていることが、調査で分かってきています。
※参考文献
藤本泰文「地域の自然環境の保全とアメリカザリガニとの付き合い方~伊豆沼・内沼での活動から~」Cancer 27 (2018)
アメリカザリガニを意味も無く減らすのは愚策か
先ほど紹介したように、アメリカザリガニは今では捕食者という立場だけでなく被食者という立場になっています。他の外来生物にも言えることですが、長い時間をかけて広がった外来生物は生態系の一員になりつつあるもの事実です。上の例のようにアメリカザリガニだけを安易に減らそうとすると、他に影響が出てしまう場合もあります。また、イタチは在来種ですが人間による影響を受け、本来の餌よりアメリカアメリカザリガニを多く食べているケースもあると言います。
アメリカザリガニによって問題が発生しているので駆除しようというケースは仕方ないと思いますが、外来種だからただ減らした方が良いといった考えはあまり得策には思えません。こういった例はアメリカザリガニだけに見られることではありません。
駆除自体は必要な場合があると思います。しかし、外来種も他の生物たちの複雑な関係を構築しているので、まずは全体を見た上で駆除にとらわれない総合的な対策が今は必要だと思います。先ほどライギョをあえて残した例を紹介しましたが、日本の在来種のナマズやスッポンなどもザリガニを捕食します。なので、ナマズが繁殖しやすいように水路や田んぼへ入りやすくし産卵可能にするなどを、アメリカザリガニの駆除よりそちらの生息数が増えるようにするほうを優先することも検討してもよいのではないでしょうか。そうすれば結果としてアメリカザリガニが減る効果も期待できます。また、スッポンであればジャンボタニシの愛称を持つ外来種スクミリンゴガイも捕食したりするので、複合的な効果が得られる可能性もあります。余談ですがスッポンはジャンボタニシ対策で既に放たれた例があるのですが、その時は人間に食べられてしまう問題が発生しました…
※参考文献
丸山 直樹・神崎 伸夫「多摩川中流域河川敷におけるニホンイタチの食性の季節的変化」哺乳類科学 38(1998)
身近な外来種だから身近に学べる形を
外来種についての分かることが多くなってきた今、アメリカザリガニを昔のように扱えないのは仕方ないことだと思いますし、そうすべきではないと思います。その反面外来種として複雑な生態系を構築しつつあり、最も身近な外来動物という意味では貴重な側面も持っています。
アメリカザリガニを連れてきたのは我々人です。アメリカザリガニを外来種のただ悪者とするのではなく、アメリカザリガニたちから少しでも多くのことを学んでいけるようにするのが、これからの環境対策として必要なのではないでしょうか。特に比較的近代持ち込まれた外来種で、日本に住むようになってある程度年月が経っているのもポイントです。その点をしっかり分析して、今後の外来種対策に役立てるのも重要だと思います。
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