ウシガエルー日本の外来生物たち

 誰もが一度は聞いたことのある身近な外来生物ウシガエルについて紹介します。前半はウシガエルの生態や日本での状況、後半はどうして日本に広がったかと農家や外貨獲得を支えたウシガエルの歴史を紹介します。

名前通りの牛のようなカエル

ウシガエルは名前の通り牛のような大型のカエルです。英語でも「American bullfrog」で直訳すればアメリカウシガエルです。元々はアメリカの西海岸側半分が生息地ですが、アメリカ東海岸側や外来種として日本全国・アジアやヨーロッパや南米の一部地域など海外にも進出しています。

カエルと言えば水が必要な生き物ですが、水辺に住むカエルとアマガエルのように水辺以外を中心に住むカエルが居ます。ウシガエルは水辺を好む夜行性のカエルで、川の淀みや池や沼のような緩やかな流れがあり水草や草の生えている場所を好みます。オスは縄張りを持ちます。

大きさは11cm~18cmです。重さは最初は130g程度ですが成長すると500g程になり、小さいペットボトル1本分にもなります。非常に大きい個体だと750gにもなります。日本に住むカエルでは最も大きなカエルです。

アメリカでも日本でも5~9月頃産卵し、日本では水草が多い場所に6,000~40,000個もの卵を産みます。トノサマガエルが1,800~3,000なので、以下に多いか分かります。数日で孵化しその年に大人に個体も居ますが、日本では2~3年かけてオタマジャクシから大人のカエルになります。大人は冬に寒いと冬眠することも出来ますが、冬眠しない場合もあります。平均寿命は資料が見つかりませんでしたが、7~8年は生きます。

特定外来生物に指定されているため、生きたままの移動や飼育・販売などは許可なしにはできません。特別な許可無しに捕獲した場合、外来生物法は死んでいる場合適用されないのでその場で処分するか、外来生物法でも認められる「その場」で生きたまま逃がしてやるかのどちらかになります。捕まえた場所以外に放す場合は、当然違法です。

※参考文献
環境省「特定外来生物ウシガエル中国・四国版」、IUCN RES LIST、国立環境研究所 侵入生物データベース、ナショナルジオグラフィック 動物図鑑 ウシガエル

何でも食べる大食漢

カエルは口に入れば何でも食べてしまうと思いますが、ウシガエルは口が大きいので昆虫・小型哺乳類・小型鳥類・ザリガニなどエビ類・爬虫類となんでも食べます。

とは言ってもネズミを代表とする小型哺乳類や鳥類はすばしっこいので食べるという報告があるだけで、常に食べているわけではありません。生息場所も影響し川や大きめの池に住むウシガエルの調査ではアメリカザリガニやスジエビなどのエビ類を沢山食べていました。一方で小川や池のある大型の運動公園での調査ではヤゴやなど水棲昆虫を中心に、水面に落ちた虫などを食べていました。

一方でクサガメ、ナゴヤダルマガエル、ニホンアカガエルと爬虫類や両生類を食べていることも確認されており、毒を持つこともあるアカハライモリまで食べていました。もっともアカハライモリは個体や地域によって毒の有無が違ったりするので、一概に言えない部分もあります。アカハライモリは皮膚や筋肉にフグ毒(テトロドトキシン)をもつので、あまり素手で触らないようにしましょう。

※参考文献
松本涼子, 諏訪部 晶, 苅部治紀「神奈川県厚木市中荻野地区で捕獲されたアフリカツメガエルとウシガエルの胃内容物について」 (2020)、鵜飼 剛啓, 伊藤 健吾, 千家 正照「河川におけるウシガエルの分布と食性」(2012) 農業農村工学会大会公演要旨集、 竹田 千尋 ,門脇 正史「茨城県宍塚大池におけるウシガエルの食性」(2009)日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡)

谷口真理, 山﨑貴良「クサガメ幼体䛾ウシガエルによる捕食事例」亀楽No.4(須磨海浜水族園)、平井 利明「ウシガエルによるニホンアカガエル雄性体の捕食」(2006)爬虫類両生類学会報、平井 利明, 稲谷 吉則「ウシガエルによるナゴヤダルマガエル雄性体の捕食例」(2008)爬虫類両生類学会報(1)、平井 利明「ウシガエルによるアカハライモリの捕食」(2006)爬虫類両生類学会報(1)

天敵も居るには居る

大型のカエルなので捕食されにくいのは事実です。一方で在来種タヌキのような哺乳類やサシバ・サギのような鳥類など、自分よりさらに大きな動物には食べられてしまいます。

オタマジャクシのうちは最近外来種ということでやり玉にあげられるコイに食べられています。コイは他のカエルのオタマジャクシより、ウシガエルのオタマジャクシのほうを沢山食べていたデータもあります。どうやらオタマジャクシの習性の違いによるもののようです。

同じ外来生物のアメリカザリガニが様々な外来生物の餌となっているのを考えると、ウシガエルも同じようなことが起こっているのかもしれません。

※参考文献
中島 啓裕「房総半島の里山で撮影された在来捕食者による外来種ウシガエルLithobates catesbeianaの利用」(2020)哺乳類科学 60、宮下 直, 跡部 峻史, 長田 穣, 武田 勇人, 黒江 美紗子「敵の敵は味方:外来種が別の外来種の勢力拡大を防ぐ」(2015)東京大学大学院農学生命科学研究科 プレスリリース

無人島では根絶完了

ウシガエルは北海道から沖縄と日本全国に広がて根絶は困難な状況です。ですが小笠原諸島の無人島弟島では、日本初のウシガエルの根絶が実施されました。

弟島は以前は住人が住んでいましたが、今では無人島となっています。ですが家畜のヤギとブタが野生化していただけでなく、小笠原諸島で唯一ウシガエルが持ち込まれて生息していました。

ウシガエルによって固有のトンボやオカヤドカリが捕食されてしまうため、2004年から2007年までかけて捕獲されました。捕獲は人によるもののとカゴワナを使っておこなわれました。島という限られた地域であることや、罠を使った場所に魚やカメに甲殻類が生息しないためスムーズな捕獲が可能だったのも成功した理由のようです。その後ヤギやブタも駆除が実施されました。

捕獲の際にはブタがウシガエルを餌としていたため、ブタを先に駆除するとウシガエルが増加してしまう可能性があったので、ウシガエル→ブタの順番で駆除する工夫がなされました。

※参考文献
小笠原自然情報センター各種資料「弟島におけるウシガエルの根絶の達成」「ウシガエルとノブタを根絶しました」「小笠原に持ち込まれた生き物たち オオヒキガエル・ウシガエル」、戸田光彦,苅部治紀「小笠原諸島における外来生物ウシガエルの根絶達成 一般講演(口頭発表) H2-12」(2010)日本生態学会第57回全国大会

改良が研究される捕獲方法

現在ウシガエルを減らす方法は、人が手で捕まえる方法や魚用のアナゴカゴを使っています。人が捕まえればウシガエルだけを捕まえることが出来ますが、非常に手間やお金がかかります。アナゴカゴのような罠を使うと、ウシガエル以外も捕まってしまいます。

そこでウシガエルに限らず外来カエルの効果的な対策が必要となっています。そこで同じ種のオタマジャクシが、他のオタマジャクシの成長を抑制するフェロモンを出すのを利用したり、繁殖期に鳴き声を使っておびき寄せるなど新しい方法が研究されています。

※参考文献
「種内競争を用いた特定外来生物(オオヒキガエル)の駆除法の開発」環境省環境研究総合推進費終了研究等成果報告書

日本を支えたウシガエル

雑学や動物が好きな方はウシガエルが食用に日本に持ち込まれたのは知っている方も多いと思いますが、ウシガエルの養殖は失敗した程度に思ってる方も多いと思います。しかし実際は大成功とは言えなかったものの、一定の成功を納め日本に貢献していた事実までは知られていないと思うので、そこまで紹介したいと思います。

ウシガエルは一石二鳥を狙って東京帝国大の渡瀬庄三郎教授によって持ち込まれました。渡瀬教授は動物学者として生き物の分布の境目となる渡瀬線を発見するだけでなく、農家の所得向上にも取り組んでいました。そこで目を付けたのがウシガエルやマングースです。

ウシガエルを野外に放つことで害虫などを捕食させ、大きく育ったウシガエルを捕獲し輸出することで農家の所得を向上させられると考えました。諸説ありますがウシガエルの国内消費は最初からあまり考えていなかったのでは?とも言われており、日本国内の消費を考えていたかは微妙なようです。マングースは海外ではネズミ駆除のため野外に放ち役立てようという例が当時既にあり、ネズミ被害が相当だった沖縄に放てばネズミだけでなくハブも駆除してくれるという思惑の元に放ったようです。

そうした理由から1918年にアメリカからウシガエル24匹を輸入し、東大にあった養殖池でカエルを繁殖させました。輸入の途中で7匹が死んでしまったものの無事繁殖に成功し、2年後には滋賀や茨城の水産試験場へ譲渡が行われるまでになりました。その後は農林水産省など国も関与しながら、養殖したカエルを野外に放っていきました。広がっていった当時の印象は今とあまり変わらず、ウシガエルの鳴き声を歓迎していない声があったり、魚まで食べてしまうことに気づく人もいました。

こうして全国に広まったウシガエルはアメリカへ輸出が行われようになり、少しづつ伸びていきました。戦前では各地にカエルの養殖場も作られ、輸出への足掛かりが作られました。カエル料理を広めようという動きもありましたが、定着しませんでした。太平洋戦争中は輸出が止まり養殖の中止が余儀なくされ逃げ出す例もありました。また、食糧難だったために国内でも消費されていきました。

戦後になると輸出が再開され、養殖の再開や逃げだして自然繁殖するカエルを捕獲するようになりました。1950年初頭に輸出は最盛期を迎え、マグロに次ぐ第3位の水産物輸出品として2~3億円相当が輸出されました。ものすごい輸出額というわけではありませんが、水産物の中では優秀な輸出品だったと思います。その頃は場所によっては乱獲が行われカエルの保護策が必要なほどでした。そして茨城の例では重量あたりではウナギより少し安い程度、コイの倍以上の値段で取引されるなど、魅力的な収入源でした。
(1952年の日本の輸出総額は約4500億円、2019年は約76兆円)

しかし1969年に日本のウシガエルが有機塩素系の農薬で汚染されていることが発覚し、アメリカへの輸出が出来なくなりました。当時年900t・8億円の輸出が行われていましたが、国内消費は殆どなかったのでウシガエルは行き場を失いました。詳細なウシガエルの顛末は分かりませんが、東京都の農業試験場所長が水路にオタマジャクシを放したなど回顧していた記録があり、そうやって逃がしたケースは複数あったと考えるのが自然だと思います。

こうしてウシガエルは戦前にまず国を挙げて最初の繁殖の試み、次に戦時による放棄、輸出中止と3度のタイミングで自然へ放たれ増えていったと考えられます。なのでウシガエルの力で生息範囲を広げたのではなく、人為的要因が中心で生息範囲を拡大したと考えられます。

農家の生活向上という考えや外貨獲得の成功は今は忘れさられ、悪者にされるウシガエルは何とも言えないですね。

※参考文献
梁井 貴史「ウシガエルの輸入年および全国分布に関する一考察」(2003)川口短大紀要、 秋山笑子「環境変化に伴う生業のあり方[ウシガエルの流入を中心として]『増田実日記』を糸口に」(2014)国立歴史民俗博物館研究報告第181集

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